定期コラム
【コラム33】債務整理中に生活保護を受けられるのか?
半世紀ぶりに生活保護の受給者が過去最多に
生活保護とは、「生活保護法」により生活に困っている人に対して、国が最低限の生活費を支給する制度のことをいいます。受給者の数は、2011年、半世紀ぶりに200万人を超え過去最多を更新しました。その数は207万人に達したと言われています。
当事務所に相談に来られる方の中にも、多重債務を抱えているため生活保護の受給を希望される方もいらっしゃいます。また、現在、生活保護を受給しているものの、借金の返済が困難なため債務整理を検討したいということで相談にいらっしゃる方もいます。
今回は生活保護制度と債務整理について、いくつかの質問をご紹介しながら説明していきたいと思います。
生活保護のお金を借金の返済に充てられるか?
Q:債務整理中ですが、毎月の生活も困難なため生活保護を申請することはできますか?
A:特に福祉事務所が調べたりするようなことはないようですが、借金がない状態で最低限の生活ができないであろうと判断されたときに生活保護費が支給されることになります。ですので、借金があるのであれば、むしろ自己破産をして借金をゼロにしてから生活保護の申請を受けるようにしてください。任意整理や個人再生など、減額した借金を返済しなければならないような債務整理中の場合では、本来、生活保護を受けることはできません。
Q:生活保護として受給されているお金を借金返済に充てることは可能ですか?また生活保護費の一部を借金の返済に充てた場合、何らかのペナルティはあるのでしょうか?
A:生活保護を借金返済に充てていることが福祉事務所等に発覚した場合、適切でないとして担当者等から、やめるようにといった指導はあると思いますが、法的なペナルティはありません。しかし、生活保護は生活を保護するために支給されるものです。担当者によっては借金の返済に充てた分は返してください、と返済額を支給額から差し引いたり、最悪の場合は生活保護が打ち切られたりといった例もあります。
Q:現在、生活保護を受けていますが、借金を返済していくにはどうしたらよいのでしょうか?
A:先に説明したとおり、生活保護費を借金返済に充てることは好ましくありません。しかし、借りたお金は少しずつでも返済していきたいと考える気持ちは大事なことです。生活保護を受けていながら、それでも家族の病気やケガなどで出費がかさみ、仕方なく作った借金であれば、生活保護を借金返済に充てても良いのでは?と思いたいところでしょう。しかし、原則として生活保護費の中から借金返済をしていくことは認められていませんのでお勧めはできません。
生活保護制度とは
生活保護を受ける方というのは、母子家庭の世帯や高齢者、病気で職業に就けないなどの理由で受給している方が多いと思います。冒頭でもご説明したとおり、生活保護は「生活保護法」によって規定されている制度です。
国は、生活に困窮する全ての国民に対し、その困窮の程度に応じ必要な保護を行い、その最低限の生活を保障するとともに、その自立を助長することを目的とし国民に対して生活保護費を支給しています。ですので、誰でも申請できるわけではありませんし、当然に生活保護費をもらうには条件があります。
生活保護は、国が定める最低限の生活をするために必要な生活費が下回っている場合に、その足りない部分を保障する制度です。憲法代25条「国民の生存権と国の債務」では、国民の権利として以下のとおり定められており、これは生活保護制度の基盤となっています。
「すべての国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」 「国は、すべての生活場面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない」
支給される金額は、地域により物価の違いなどから異なります。給与所得や年金、各福祉手当、保有資産などを合わせても最低基準に満たない場合、厚生労働省で算出された金額を元に各都道府県の各自治体により生活保護費が支給されます。受給には以下のような条件があります。
- なんらかの事情で働けない
- 収入が最低基準以下
- 身寄りがいない、頼る親族がいない
- 預貯金、車、土地などの資産がない
生活保護の種類
生活保護は以下の8種類で分類されています。生活を営むうえで必要な費用に対して、年齢や性別、健康状態など各世帯の生活状況を考慮して、1つまたは2つ以上の扶助が支給されます。
- 生活扶助・・・日常生活に必要な食費、被服費、光熱費などにかかる費用
- 教育扶助・・・義務教育を受けるために必要な学用品費
- 住宅扶助・・・アパートなどの家賃の費用
- 介護扶助・・・介護サービスにかかる費用
- 出産扶助・・・出産に必要な費用
- 生業扶助・・・就労に必要な技能の取得などにかかる費用
- 葬祭扶助・・・葬祭にかかる費用
このように、生活保護はその使用目的が明確に決められ、上記8種類以外の目的に使うことは原則禁じられています。なお、生活保護を受けていても、こども手当や児童扶養手当などは別途支給されますのでご安心ください。
生活保護以外の方法はないのか?
では、生活保護を受ける以外に、多重債務に苦しむ方は少しでも生活を楽にする方法がないのかを考えてみましょう。
原則、借金があっては生活保護を受けることはできません。ですので、借金を抱えて生活に困り生活保護を受けようと考えているのであれば、まず債務整理をする必要があります。
借金が少額の場合は自己破産をするよりも、任意整理などの債務整理を選択し、返済義務はなくなりませんが返済期間の延長や一時的に支払い停止の申請をすることも可能です。その辺はケースバイケースですので、弁護士や司法書士などの専門家に相談しましょう。
現在、生活保護を受けている方で借金があるのを隠していたという場合、もしくは生活保護を受けてから借金を作ってしまったという場合については、福祉事務所の担当ケースワーカーに相談してみてください。生活保護に関する対応は、各福祉事務所、担当ケースワーカーによって異なりますが、正直に話してみるのが一番良いのではないかと思います。
自治体によっては、生活保護を打ち切られてしまうかもしれませんが、その場合、自己破産をして借金をゼロにし、その上で生活に困窮するようであれば再度生活保護を申請するという方法もあります。
いずれにせよ、借金がある場合の返済に関しては借金の総額やそれぞれの生活状況に合った債務整理の方法がありますので、できるだけ早めに弁護士や司法書士などの専門家に相談されることをお勧めします。