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定期コラム

【コラム30】家族が代わりに自己破産の手続きをできるのか?

行方不明の子供に代わって自己破産できるのか?

以前、このようなご相談を受けたことがあります。

「主人が仕事のストレスから重度の精神障害になり仕事も退職しました。この不景気で退職金もほとんどなく、私がパートで働きに出ていますが、主人の看病もあり生活は苦しくなる一方です。最近になり、主人がサラ金から200万円借金をしていることが判明。取立ての電話も掛ってきますが、正直払えるような状況ではありません。自己破産をするしかないと考えていますが、借金をした本人である主人は全く判断ができない状況です。このような場合、家族が代わりに自己破産の手続きをすることはできますか?」

そして、先日、こんなご相談も受けました。

「行方不明の息子が300万円の借金をしていたことが、最近になり分かりました。連絡先が私たち(ご両親)のところだったようで、消費者金融から催促の電話がたびたび来るようになりました。年金生活なので、私たちが代わりに払うことはできませんが、息子の代わりに自己破産の手続きをしたいのですが、どうすればいいでしょうか?」

まず、行方不明の息子さんに代わり親御さんが自己破産の手続きができるかどうかですが、残念ながら代わりに手続きをすることはできません。ただし、息子さんの連帯保証人になっていない限り、親御さんが代わりに借金を払う必要もありません。

もし貸金業者が取立てに来たとしても、債務者以外の者に支払いを請求することは、貸金業規制法第21条1項により禁止されていますのでご安心ください。しつこく取立てがあるようでしたら、弁護士や司法書士などの専門家に相談するか警察へ通報しましょう。

精神障害になり判断力のない配偶者の借金

では、次に精神障害になり失業したご主人の借金についてですが、こちらも同じく連帯保証人でない限り、原則として配偶者である奥様が支払う責任はありません。ただし、ご相談内容は、判断力のないご主人に代わり、奥様が自己破産の手続きができるかどうかについてです。

ここでポイントとなるのは、本人の判断力の程度により対応が異なるという点です。

ご家族が精神障害や認知症、知的障害などで判断能力が不十分とみなされた場合、「成年後見制度」を利用することをお勧めします。この制度は、本人の利益を考えながら、本人を代理したり、同意を与えたりして法的に保護し、支援する制度です。

では、障害の度合いにより、どのように対応が異なるのか?  後見制度には、法律によるものと契約によるものの2種類がありますが、ここでは法律による後見制度に沿って説明をしていきます。

本人に代わる成年後見制度

今回のように、本人に自己破産の手続きなどを行う判断能力がない場合、まず、本人、配偶者、4親等内の親族、市町村長などが本人の住所地の家庭裁判所へ成年後見制度の申立てをします。すると、裁判所が事案に応じ適切な保護者を選任します。

適切な保護者は、本人の障害の度合いにより、「後見」「保佐」「補助」の3つに区別されます。

  • 後見・・・判断能力が全くない場合、家庭裁判所が後見開始の審判をして成年後見人を選ぶ。
  • 保佐・・・判断能力が特に不十分な場合、家庭裁判所が保佐開始の審判をして保佐人を選ぶ。
  • 補助・・・判断能力が不十分な場合、家庭裁判所が補助開始の審判をして補助人を選ぶ。

今回のご相談内容のように自己破産の手続きをするのに、本人に判断能力が全くない場合、後見人が包括的な代理権を持つこととなります。よって、後見人が本人に代わり自己破産の申立ての手続きを行うこととなります。

また、本人に全く判断力がないというわけではない場合、本人の判断能力が回復するのを待ち、本人が自己破産の申立ての手続きを行うこととなります。

ですので、ポイントは判断力の度合いとなります。今回のご相談者の場合は、ご主人が全く判断する能力がないということで「後見人」が代わりに自己破産の手続きをすることとなりますが、借金をした本人が、どの程度の精神障害なのかにより対応が違ってくるというわけです。

ただし、あくまでもご主人の代理人となる後見人は、裁判所が決めることとなりますので、例え配偶者であっても自分で決めることはできません。

ですので、まずは住所地の裁判所へ成年後見制度の申立てをしてみてはいかがでしょうか? 申立ては配偶者である奥様もできますし、その上で、裁判所が後見人には奥様が適任であると判断するかもしれません。

借金のある配偶者が死亡した場合

同じようなケースで、もしも配偶者が借金を抱え死亡してしまった場合、話は全く違ってきます。この場合、配偶者は「負」の財産であるご主人の借金も相続することとなり、返済する義務を負うこととなります。これについては、連帯保証人かどうかは問題ではありません。相続を放棄しなければ、負の財産も背負うことになるのです。この辺は例外や制限などもありますが、ここではややこしくなるので詳しくは別の機会にお話します。

ただし、ご主人が作った借金の内容によっては、配偶者である奥様に返済の義務は発生せずにすみます。それは、借金の理由が「日常の家事」であった場合です。

以前にコラムにも書きましたが、「仕事上で必要となった借金」「ギャンブルや旅行などに使うための借金」などとは日常家事には該当しません。土地建物の売買も同様です。日常家事に該当するもの、しないものの目安は以下のとおりです。

●日常家事に該当するもの

  1. 家族が暮らす家の家賃、電気・ガス・水道などの光熱費
  2. 食料品やトイレットペーパーなどの生活必需品の購入費
  3. 家族の医療費
  4. 子供の養育費や教育費 など

●日常家事に該当しないもの

  1. 高価な宝石や毛皮など収入に見合わない高額な商品の購入費
  2. ギャンブルのための借金
  3. 負債や損害賠償など仕事上の借金
  4. 交通事故や傷害、詐欺など夫婦の一方が起こした事件や事故による借金

上記でお分かりのように、お子さんの学費や新しく購入予定の洗濯機や大型テレビなどのための借金であれば、これは日常家事に該当します。ご主人の名義で借金をしていたとしても、配偶者である奥様にも連帯責任として支払い義務が発生するわけです。これは、奥様名義の借金でも同じことが言えます。

最後に、「成年後見制度」についてですが、その申し立て費用をまとめておきますので参考にしてみてください。いずれにせよ、ご本人、配偶者、お子さん、また借金の保証人になっているなど、借金のことでお困りの場合、相手は取立てのプロですから、素人判断は厳禁です。無料相談もございますので、早いタイミングでご相談ください。

●法定後見開始申立て費用(参考)

  • 申立て手数料・・・800円(収入印紙)
  • 登記手数料・・・4,000円
  • 裁判所が定める郵便切手・・・約3,100円分(裁判所により金額が異なります)
  • 鑑定費用(「後見」「保佐」の場合)・・・概ね50,000円~100,000万円