定期コラム
【コラム22】人身事故を起こしても賠償金を免責されるケース
故意や過失のない人身事故でも免責は認められないのか?
前回のコラムでは、「交通事故を起こした際の賠償金について、自己破産をしたけど払わなければいないのか?」という疑問に、当事務所での相談例をご紹介しました。
結論としては以下のようになることをご説明しました。
●免責確定後に起こした事故
- 賠償金を支払う義務はあるが、法的強制力はない。
- 被害者が給与差し押さえなどの訴訟を起こす可能性はある。
●事故を起こしてから免責が確定した
- 軽過失なら法的支払い義務は消滅する。
- 故意による人身などの重過失は消滅しない。
すでに破産宣告をし、免責が確定した自己破産者が起こした交通事故の賠償金は、支払わなければなりません。しかし、事故を起こした後に免責が確定した場合は、支払の義務が消滅します。ただし、飲酒運転など故意による人身事故などの重過失の場合は消滅しないというものでした。
そこである疑問を持たれた方もいらっしゃると思いますので、今回は前回のコラムの補足をさせていただきます。その疑問とは、「故意や過失のない人身事故でも免責は認められないのか?」というものです。
まず、重過失と軽過失による事故ですが、重過失とは飲酒運転や速度超過、ひき逃げなど故意によるものです。軽過失はわき見運転やハンドル操作ミスなどで、故意ではないものの過失はあります。
自賠法3条但書の3つの条件をクリアすること
では、地震や雷による不可抗力の場合はどうなるのか? これはもちろんご説明するまでもなく免責は認められます。それから、もう1つ。交通事故を起こしても、損害賠償金の免責が認められる場合があります。それは、自賠法3条の但し書きの条件をクリアした場合です。
●自賠法3条但書による免責
加害者が自賠法3条但書の条件を証明することができれば、交通事故の責任は免責される。
(免責の要件)
- 運行供用者及び、運転者が自動車の運行に関し注意を怠らなかった事
- 被害者又は、運転者以外の第三者に故意または過失があった事
- 自動車の構造上の欠陥又は機能の障害がなかった事
これらの3つの条件はすべて証明しなければなりません。1つでも証明できなければ、免責を受けることはできないという法律です。
自賠法は、正式名称を「自動車損害賠償保障法」と呼び、1955年に制定された法律です。その目的は、車による人身事故の際の運転者の責任を強化し、被害者を救済するためのもので、自賠責保険は車を所有したら強制的に入らなければなりません。
自賠法には、上記の但し書きにもありました「運行供用者」という言葉が出てきます。運行供用者とは「運行を支配し、運行による利益を持つ人」のことで、以下の人たちのことです。
- 車の所有者
- 車を借りた人
- レンタカー会社またはタクシー会社の事業主
- 運転手を雇っている会社
自分が運転をして起こした事故でなくとも、運行供用者であれば、「自賠法3条但書による免責」に定められた3つの条件を証明できない限り、賠償責任を負わなければなりません。
ですので、自己破産者でなくとも、毎月の返済が苦しく債務整理を考えているのであれば、安易に車を人に貸したことで、自分にも賠償責任が生じる可能性があるということを忘れないで欲しいのです。また、ご自身が運転する際も、十分に注意をしてください。もちろん、債務整理者に関係なく交通事故、まして人身事故を起こしてはならないということは言うまでもありませんが・・・。
免責が認められた判例と認められなかった判例
参考までに、自賠法3条の免責に関する過去の判例として、免責が認められなかった例と認められた例をご紹介しておきます。
●免責が認められなかった判例
『単に自動車運転者の無過失、被害者の有過失の主張だけでは免責されず、自動車運転者は自賠法3条但書の規定の全てについて主張立証が必要である』 (東京地裁昭和38年6月24日)
自賠法3条但書所定の免責事由が主張立証されない限り、被告は本件事故による負傷によって原告がうけた前項の損害について賠償の責に任じなければならないのである。被告は、本件事故は、被告の過失ではなく、原告の過失にもとづく旨主張している。しかし、前段にふれた自賠法3条但書きの規定によれば、単に自動車運転者の無過失、被害者の有過失の主張だけでは免責されず、同規定の全部について主張立証することを要するわけであって、被告のこの主張自体理由がなく、採用の余地がない。
●免責が認められた判例
『停車中の自動車に後ろから来た自転車が接触・転倒した場合に、自動車運転者には過失がないものとされた』 (東京地裁昭和39年11月28日)
被告者が同交差点入り口中仙道上左側歩道より約1メートルの地点において一時停止し、これに追進する車との距離が4、5メートルになったとき原告操縦の自転車が被告車と歩道との僅か1メートルの間隙をぬって通過しようとし、その際被告車の左側前部フェンダー付近に接触し、そのため原告は自転車もろとも路上に転倒したこと、以上の事実を認めることができる。右認定に反する原告本人尋問の結果は前掲各証拠に照らしてたやすく措信できず他に上記認定を覆すに足りる証拠はない。そして右認定によれば本件事故は停車中の被告車に、後から進行して来た原告の自転車が接触したため発生したものであって、運転者には過失がなく、進路左右の注視を怠り、自己の操縦技術を過信した原告の過失により生じた事故であると認めざるを得ない。また証拠によると、当時被告方の専属運転手は前記太田のみで被告は毎日同人に車の整備点検を励行させ、また常々事故を起こさないように注意を怠らなかったこと、同人を運転手として採用するに際して同人が事故、法規違反歴のないことを確かめて採用したことを認めることができるから、被告は被告車の運行に関し、注意を怠らなかったということができ、さらに被告車に構造上の欠陥機能障害がなかったことは同人の証言によってこれを認めることができる。
今回ご紹介した2つの判例は、あくまでも参考例です。どのようなケースで免責が認められる、認められないかはそれぞれの状況によって異なるため、一概にどちらだと判断できない場合があります。ですので、事故を起こしたからと決してヤケになったり、人生の終わりだと早まった考えは持たないでください。場合によっては、人身事故であっても免責を受けられる可能性もあります。もしも、自己破産を含め債務整理の手続きをしている最中に事故を起こしてしまったなら、早急に司法書士や弁護士などの専門家へ相談してください。