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【コラム18】勝手に持ち出された家財は取り戻せるのか?

返済が1カ月遅れただけで差押え?

このコラムでは、様々な理由から多重債務に陥ってしまった場合、どのような債務整理が適しているかについて度々ご説明してきました。今回は、当事務所にご相談に来られた債務者Aさんのお話をご紹介したいと思います。

Aさんは、突然勤めていた会社からリストラされ、生活費を工面するため貸金業者から毎月お金を借りるようになり、次第に多重債務に陥ってしまいました。

それでも、毎月何とか返済を続けていたのですが、どうしてもお金が工面できず1ヶ月だけ遅れてしまいました。すると債権者である貸金業者Bが、突然Aさんの自宅に押しかけてきて、返済が遅れたから差し押さえると言い放ち、許可なく自宅にあった大小の電化製品やベッド、タンスなどの家財道具などを勝手に持ち出してしまいました。

持ち出された物の中には、亡くなったお母さまの形見の指輪などの宝石類や位牌もあり、何とか取り戻すことはできないだろうかと相談にいらっしゃいました。このような場合、Aさんはどうしたらよいのでしょうか?

法的許可を得ない限り業者が持ち出す権利はない

それでは、このようなケースの場合、債務者である皆さんはどのように対応すべきかを、その時のAさんのやり取りをQ&A形式でご説明します。

Q1:債権者である貸金業者が借金を回収するために、家財道具など持ち出す権利があるのでしょうか?

A:返済期日が過ぎていたとしても、強制的に債務者の持ち物を差し押さえ、勝手に持ち出す権利は債権者であってもありません。たとえ何カ月遅れたとしても、債権者である貸金業者が許可なく持ち出すことはできません。

これはどういうことかと言うと、債権者が法的なる手続きをせずに債務者であるみなさんの財産を処分し、債権を回収することを『自力救済』といいますが、日本の法律ではこうした行為は認められていないからです。

しかし、債務整理によって自己破産などをした際は法的手続きをとることとなりますので、住宅や土地などの不動産、車など資産価値のある高額な物を所有していた場合に関しては、売却して返済に充てる必要があります。ただし、生活必需品に関しては差し押さえが禁止されていますので、いくら法的手続きをとったとしても差し押さえられることはありません。

形見の宝石や位牌などは返してもらえるのか?

Q2:持ち出されてしまった、形見の宝石や位牌などは返してもらえるのでしょうか?

A:今回のケースで言えば、本来貸金業者が勝手に持ち出すことは法律で認められていませんので、窃盗罪などなんらかの方法で訴えることで返してもらうことは可能だといえるでしょう。 しかし、債務整理によって自己破産などを申立てた場合、生活必需品以外の高価な物に関しては売却して返済に充当することになっております。

となると、Aさんのようなケースなら形見の宝石や位牌などを取り戻すことはできても、自己破産をした場合は、取り戻すことが難しいのでしょうか?

たとえ裁判所の判断で強制執行になった場合も、執行官による財産の選定が行われます。 この選定の際にも、“差押禁止物品”に該当する物は執行不能(差し押さえできない)で終わることもありますし、余程高額なものでない限り、差し押さえや勝手に持ち出すことはできないとされています。

ちなみに、差押えの対象となるものには土地や建物などの不動産をはじめ、預金や給与も該当します。また、クレジットで購入したものは、返済が終わっていないものについてはクレジット会社のものですので、返却しなくてはなりません。が、これは差押えと意味が違います。

差押えが禁止されているものとは?

では、具体的にどのような物が差押禁止物品に該当するのか、以下をご覧ください。

  • 生活必需品とみなされる物(衣類・寝具・家具・台所用品・畳や建具など)
  • 1カ月の生活に必要な食糧や燃料
  • 政令で定める、標準的な2カ月間の生活費の額の金銭
  • 農業や漁業、技術職で仕事をするために必要な物
  • 実印やその他の印鑑など
  • 仏像、位牌その他礼拝
  • 日記や商業帳簿、勲章や名誉を表章する物
  • 教育に必要な物
  • 発明や著作に係る物で未公表の物
  • 義足などの身体の補足に必要な物
  • 法令に定められた消防器具や避難器具

こうしてみると、位牌は明らかに差押禁止物品に該当しますが、たとえ形見だといえども、指輪やネックレスなどの高額な宝石などは該当しない確率が高くなります。

持ち出されない方法と持ち出されてしまった場合の対処法

Q3:今後も同じようなことが起きた場合、どうしたら家財道具などの所有物を持ち出されたりしないように対処できますか?

A:もし承諾書などの書面に署名捺印を迫られたら、しないようにしましょう。 債権者である貸金業者は持ち出す際、承諾書などの書面によって署名捺印させる場合があります。これでは不当な行為を容認してしまうことになります。承諾書に署名押印をしてしまうと訴えることは難しくなりますから、絶対に署名捺印しないよう注意が必要です。

Q4:では、もしも自宅に子供だけしかおらず、許可なく持ちだされてしまった場合、どのように対処すればよいのでしょうか?

A:これは窃盗罪として訴えることが可能です。 ドラマなどで見るような「差し押さえ」という紙を貼って、家から勝手に持ち出される・・・などということはありません。貸金業者が、債務者であるみなさんの許可なく所有している家財道具などの生活必需品を持ち出した場合、損害賠償請求を起こすことができます。また、勝手に持ち出したことに対しては窃盗罪、住宅に侵入して持ち出したのであれば住居侵入罪などが成立する可能性があります訴えることができます。

とは言え、強面の貸金業者が何人かで差し押さえに来たとなれば、怯んでしまうかもしれません。しかし、ここは勇気を持って断固と拒否してください。相手が法的手続きをとっていないのですから、あなたの立場は法的にも保護されています。

まして、法改正により自己破産などをしても家財道具の持ち出しや、生活に必要な最低限の貯蓄については持ち出されるということはなくなりましたので安心してください。

もちろん、Aさんのような例はテレビCMなどで流れている正規の大手消費者金融では、現在的に起こらないでしょう。しかし、もしもあなたがヤミ金などのような利息制限法や出資法の利率を超えた貸し付けをしている貸金業者、違法な方法で返済を迫るような悪徳貸金業者から借りているのであれば、Aさんと同様の事態が起こりうることも考えられます。

その意味からも、もし現在の返済状況では将来的に返済ができなくなる恐れがあるのであれば、返済が滞る前にできるだけ早い段階で債務整理を行うことを検討し、まずは弁護士や司法書士などの専門家に相談するようにしましょう。