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【コラム17】年収の3分の1―総量規制の問題点

借金苦による自殺や自己破産は自業自得?

いつも多重債務のご相談を受けていて思うことがあります。 借金などしたことがないという方にとっては、多重債務に苦しんでいる方、特にヤミ金などに手を出して返済が困難になり自殺をした、自己破産したという方のことを、「高金利だとわかってて借りたんだから自業自得じゃない」とおっしゃる方が少なくありません。

私も基本的には、債務者は高金利だと知って借りたのですから、ヤミ金業者ばかりが100%悪いとは言い難いだろうと思っています。ただ、ヤミ金業者に手を出す方のほとんどが、すでに借入枠もなく、通常の貸金業者にも借入を断られ、それでも必要なお金を工面するため、泣く泣くヤミ金業者から借入をしてしまった・・・という状況があります。

もちろん、借金の理由が、ギャンブルや収入に見合わない高額な商品の購入などであれば、同情する余地もないというところでしょう。まして、そのような理由で借金を作ってしまったことに微塵の反省もないとしたら・・・余計に、です。

しかし、急なリストラや病気や事故による入院などで、生活費を捻出するための借金となれば、同情の余地は十分にありますし、何とかして借金地獄から解放してあげたいと痛切に感じます。だからと言って、他にも手はあっただろうに・・・というのが率直な気持ちです。

だからこそ、人の弱みにつけ込んで高金利でお金を貸す、しかも、中には「トゴ」と呼ばれる10日間で5割という、考えられない金利を設定している業者に対し許せない気持ちがありますし、そういう業者に対しての法の規制はもっと厳しくしてもいいだろうと思います。だって、10日で5割というとピンと来ないかもしれませんが、年利にすると1825%です。信じられない数字だと思いませんか・・・?

消費者救済のための法改正で浮き彫りになった問題点

今回、私がお話したいのは、こうしたヤミ金業者の被害から消費者を守る目的で改正された貸金業法が、かえってお金に困っている消費者を苦しめているという事実についてです。

もちろん、貸金業法の改正が一概に悪いと言いたいのではありません。このことにより、安易に借入をしてしまうという環境は改善されました。しかし、その影で以前ならば普通の貸金業者から借入ができた人でさえ、やむを得ずヤミ金業者に手を出さなければならなくなった・・・という問題点も浮き彫りになっているのです。

最近、お金を借りようと思って申し込んだら、予審が通らなかったという経験をお持ちかもしれません。まさに、法の改正による影響だと言えるでしょう。また、法改正に伴い、すでに借入をしている場合、借入先の業者から収入証明の書類を提出するよう通知が来ていたはずです。

では、改正された貸金業法のどのような内容が、私たち消費者に影響を与えているのでしょうか?

「総量規制」という言葉を耳にした方も多いと思います。改正貸金業法で新たに導入されたこの規制は、貸金業者が借り手の返済能力を精緻に判断する材料のひとつとして、貸出残高を収入の3分の1までとしました。年収300万円の人ならば、残高が100万円までしか借りられなくなったということです。

ただ、この改正により現行29.2%だった上限金利が15~20%へと引き下げられたのですから、収入の3分の1までの借入で足りている方にとっては非常に有難いことだと言えます。

総量規制により貸付の初期審査が厳しくなった

しかし、約1,000万人とも1,500万人いるともいわれる債務者にとって、この総量規制に引っ掛かれば追加融資を受けることができなくなってしまいます。

実際、法改正が行われる前の2008年、株式会社NTTデータ経営研究所の日本貸金業協会員を対象とした調査では、初期審査の今後(調査以降)の見通しに関して次のような結果が出ています。

初期審査(新規借入申込者に対する審査)の状況において、「(今後)厳しくする」と回答した業者が61%、直近1年の審査状況および今後の審査状況では、実際に「厳しくした」とする業者が59%にものぼっています。

しかも、貸付残高規模が5,000億円超の大規模業者ほど「厳しくする」と回答し、その数は86%となっています。

そして、注目すべき数字は、「正常取引中の貸付先における総量規制に抵触しそうな貸付先比率」(2007年度末時点)です。

「ほぼ対応不要」と回答した割合は、貸付残高5億円以下の小規模事業者が22%であるのに対し、5,000億円超の大規模事業者は0%、つまり対応が必要であると答えています。

その中には、現在、滞りなく返済している債務者でさえ、その50%が年収の3分の1以上の借入残高があるため、業者にとっては「対応が必要と判断されてしまいます。

さらに、年収300万円以下の人に至っては、約70%が総量規制の影響を受けるとも言われ、これに該当する人たちは、新たな借入が難しい状況になってしまったわけです。

年収の3分の1を超えた借入分について

では、総量規制によって借入残高が年収の3分の1以上ある人は、超えている分をすぐに返済しなければいけないのでしょうか?

これについては、いくら法改正で決まったこととはいえ、いきなり超過している分を返せと言われることはありません。

総量規制は、あくまでも新規の借入に関しての取り決めです。もちろん、借入残高が年収の3分の1以上あるのですから、新たな借入はできませんが、だからと言って以前から借りている分に関して、すぐに返済を迫られることはありませんのでご安心ください。

万一、「総量規制で超過分をすぐに返済しろ」などと言ってくる貸金業者がいたとしたら、応じる必要はありません。

とは言え、こうした法改正、総量規制と言っても、実際に多重債務に苦しむ人たちの間で、どこまで浸透しているかが疑問です。

毎月の返済のために、また新たに借入をして返済に回す・・・。そんな生活を繰り返す多重債務者。借金の理由が、リストラや病気などにより収入が減ったことで、生活費を工面するためという方もいます。そのような方の多くは、借入残高が年収の3分の1を超えているでしょう。

お金は入って来ない、でも返済は待ってくれない・・・。そのような状況で、今度は新たな借入ができないとなれば、自殺や自己破産をせざるを得ない状況に追い込まれるのは目に見えます。自殺者や自己破産者を減らすための総量規制が、逆にこうした人の数を増やしているとしたら・・・。想像しただけでも恐ろしいことです。

いずれにせよ、すべての方が債務整理の対象となるかは別として、とにかく毎月の返済が困難だと感じたら、できるだけ早く私たちのような法の専門家に相談するのが解決への近道ではないでしょうか。