定期コラム
【コラム6】自己破産手続きをしただけではダメ
裁判所に申し立てをしただけでは借金はなくならない
前回のコラムで自己破産について少々説明をしましたが、自己破産は破産手続き開始の決定を受けたからといって、借金がなくなるわけではありませんので、その辺のことを中心に、今回はもう少し詳しく自己破産の「免責」という手続きについて説明をします。
自己破産には、「同時破産廃止」と「破産管財事件(異時破産)」の2つの手続きがあり、この2つの違いは、処分する財産があるかないかが大きなポイントとなることは前回もお話しました。マイホームや車などの財産がある場合は破産管財事件、財産がない場合は同時破産廃止の手続きとなります。
ただし、どちらの手続きも管軸の地方裁判所に申し立てをしただけでは借金はなくならず、必ず「免責」の決定を受けなくてはなりません。
免責とは、本来ならば借金である借りたお金は、貸主(債権者)に返すのが当然ですが、自己破産することで、裁判所がその責任を免除=借金を帳消しにすることです。
自己破産(同時破産廃止)の流れ
- 自己破産を決定し認定司法書士等の法律専門家に依頼
- 債権者に受任の即時電話連絡と支払の停止請求および受任通知の即日発送
- 管轄の地方裁判所に自己破産・免責の申し立て
- 破産の審尋
- 破産手続開始決定(破産宣告決定)および同時破産廃止決定
- 官報に掲載
- 破産の確定
- 免責の審尋
- 債権者の異議申し立て
- 免責許可の決定
- 官報に公告
- 免責の確定および復権
「破産の確定」はあくまでも返済能力なしと認められただけ
ここでは、流れの詳細は省略しますが、自己破産をする本人(債務者)が自分の住所を管轄する裁判所に申し立て(3)をすると、裁判所は支払能力が不能な状態であるかなどを審理(4)し、破産の決定を受け、官報に掲載された上で破産の確定(7)がなされます。ここでようやく、「この債務者は借金を返済する能力がありません」ということが裁判所に認められたことになります。
だからと言って、返済能力がないと認められただけでは、借金は帳消しにならず、次に借金を返済する責任が免除される「免責」という手続き(8)を行うことになります。そして、免責の決定を受け官報に公告後、確定がなされてはじめて借金がすべて帳消しとなります。
免責が許可されないケースとは?
破産法には「免責不許可事由」という項目があり、債務者が破産宣告の前後を問わず、以下のような行為を行った場合には、免責許可されない可能性が高くなります。
- 自己もしくは他人の利益を図り、または債権者を害する目的で、財産を隠したり損壊したり、その価値を不当に減少させる行為をしたとき
- 浪費または賭博などで、著しく財産を減少させたり、または過大な債務を負担したとき
- すでに返済不能な状態にありながら、特定の債権者だけに返済をしてしまったとき
- すでに返済不能な状態でありながら、偽って借金をしたり、クレジットで買い物をしたとき
- 破産者が免責申立て前7年以内に免責を得たことがあるとき
- 一部の借金を除き自己破産の申し立てをしたとき
裁判官の裁量により免責の許可が受けられるケースも
ただし、これらの事由があれば必ず免責の許可が受けられないわけではありません。実は「裁量免責」という制度があり、破産法は平成17年に改正されましたが、旧破産法では免責不許可事由であったとしても、裁判官の個々の判断により免責の許可が受けられるケースもあります。
むしろ、新破産法に変わったことで、今まで以上に債務者には有利となり、自己破産制度が利用しやすくなったのです。
旧破産法では、債権者は借金を帳消しにされてはなるものかと、訴訟の提起をしてくることもありました。しかし、新破産法では、自己破産の申し立ての後では差押えなどの法的な手続きの効力が無くなるため、実際に訴訟を起こす貸金業者はほとんどいなくなったからです。
破産の確定を受けても免責許可を受けられなければデメリットばかり
自己破産をすると、借金から解放されるというメリット以外は、マイホームや車などの高額の財産を失うばかりか、一定期間、ローンやクレジットを利用することができなかったり、金融機関との取引に影響が出たりするデメリットのほうが多くなります。
また、破産が確定した段階で、次のようなデメリットが発生します。
- 市町村役場の破産者名簿に記載される。
- 官報に掲載される。
- 弁護士や公認会計士など、公法上の資格が停止され業務をすることができない。
- 後見人、保証人、遺言執行者、合名会社、合資会社の社員および株式会社、有限会社の取締役、監査役などの私法上の資格制限が与えられる。
- ローンやクレジットを利用することができなくなる。
- 自分の財産を勝手に管理、処分できなくなる。
- 破産管財人や債権者集会の請求により必要な説明をしなければならない。
- 裁判所の許可なしに住所の移転や長期の旅行をすることができなくなる。
- 裁判所が必要と認める場合には身柄を拘束される場合がある。
- 郵便物は破産管財人に配達され、破産管財人は受け取った郵便物を開封できる。
なお、財産がある破産管財人事件については、以下のような制約も追加されます。
もしも免責手続きをしなかったり、手続きはしたものの免責の許可が受けられなかったりすれば、これらの制限は残ったまま、借金も返済能力がないということだけ確定しただけで、借金そのものがなくなったことにはならないのです。
では、最後に免責の許可を受け法律的な制限から解放され、晴れて自己破産が成立することで、どのような状態に戻るかをまとめておきましょう。
- 借金の返済責任がなくなる。
- 破産者名簿から抹消される。
- 貯金も可能、保険にも入ることができる。
- 弁護士などの資格所有者は、業務を再開できる。
- 後見人、保証人、遺言執行者などになることができる。
- 株式会社などの取締役、監査役になることができる。
ただし、7年ほどはローンやクレジットを利用できなくなる可能性は残りますが、その他は申し立てを行う以前の状態にほぼ戻すことができます。ですので、多額の借金を抱え、その返済能力がないのであれば、自己破産という方法を選び、以前のような生活を取り戻すのも決して悪いことではありません。