コラム
債務整理のご提案の前に 法律事務所のホンネ
当所をご訪問されるお客様中でご相談を受けた際、出会うやいなや「自己破産をお願いします」などと債務整理手法を切りだされることが少なくありません。例えば「個人再生をしたい」と言ったご連絡を受けた後にご面談を行うと、これらのお客様の多くはインターネットなどの知識から「物件ローンならば個人再生」と言った偏った情報を植えつけられてしまっているようです。このようなお客様の場合、ご依頼内容のほとんどがのっけから「個人再生」を念頭に置いておられます。中にはこちらが丁寧にご説明をしても「個人再生をお願いします」とつっぱねる方もおられます。
しかし、これは大きな間違いです。僭越ですが、お客様の債務状況により、ベストなプランをご提示するのが法を扱うものの役割。例えば家屋や土地のみならず、自動車なども確かに不動産に準じた取り扱いをされることがあります。しかしそれらはローンの返済が終わるまでは、所有権は信販会社のものとなります。これはローンを組んだ際に「所有権留保」と言う条項が必ず入っているためです。これにより、返済中に例えばマイホームの個人再生を行うと、問答無用で自動車を引き上げられるなどと言ったケースも往々にしてあるのです。逆に安易に「では任意整理で」と考えると今度は返済が滞って借金が行き詰まり、債務整理を行った目と鼻の先で破綻してしまう場合もあるのです。このようになってしまうと目も当てられません。
これらの問題点は、
1)インターネットなどでお客様が誤った知識を身につけてしまうこと。この2点であると言えるでしょう。
2)お客様からの提案に、法律・法務事務所がきちんと対応しないこと。
1番目のインターネットの情報はあくまでもステレオタイプなもので、例えば「不動産を所有し、毎月ローンを払いながらも闇金に手を出してしまった」などと言う方もおられます。また「信販会社が執拗な取立ての最中、迂遠な物言いながらもマイホームを手放すように圧力をかけてきた」などと言う方も珍しくありません。このようにお客様一人ひとりによって、債務状況はケースバイケースなのです。それにも関わらず、「大手の債務整理サイトに書いてあったから」などと情報を鵜呑みにしてしまうと、助かるものも助からない可能性が生じてくるのです。これらのように言質を取ってきたり、精神的に圧迫をかけてきたりする者たちときちんと交渉をし、さらに動産・不動産を上手に手元に残しながらも債務整理を行うことが私どもの本来の役割なのです。
2番目に関しては言わずもがなと言うものです。景気の悪化に伴って債務整理事務所が目立つ時代になってきた結果、残念ながらベストを尽くしていない法律・法務事務所も少なくありません。中には「取れるだけ取ってやろう」と言う悪意を裏に秘めた事務所も散見されます。そのような事務所はお客様が債務整理の手順を提示したところで、それを諾々と受けてしまいます。別の手法を提案するのはお客様のご提案されたプランがあまりにも難しいか、さもなくば「こちらならばもっと稼げる」と判断された場合のみ。このような事務所は債務整理を行う者として失格と言わざるを得ません。
このようにお客様の思い込みから債務整理手法を切りだされることは大変に危険です。とは言え、そう言わざるを得ないお客様のお気持ちも十分に分かります。借金の返済が滞ると精神的にも圧迫され、自然と視野も狭まります。中には真っ青な顔で息せき切って「債務整理をしたい」と駆けこんでこられる方もおられます。そのようなお客様はご面談と同時に「自己破産を…」または「任意整理を…」と言ったかたちで切りだされることも少なくないのです。しかしそれがお客様の将来のためにならないと判断した折にはきっぱりとそれを跳ね除け、お客様個々人が本来お持ちのご要望に最も適したプランを出さねばなりません。
優れた債務整理の専門家はお客様の債務状況だけで判断をしたりはせず、それに加えてお客様の資産・収入・職業・年齢・性別など様々な視点から現状を分析します。それによって最も苦痛の少ない返済方法を選択するのみならず、返済後におけるスムーズな人生の再建までを包括的に見つめてご提案しなければならないのです。